広島高等裁判所松江支部 昭和25年(う)211号 判決
論旨は要するに弁護人は原審において、被告人は本件犯行当時心神喪失少くとも心神耗弱の状態にあつた旨の主張をしたのに対し、原判決はこれに対する判断を示していないから、原判決には理由を付しない違法があるというに帰する。しかし、原審公判調書によれば、弁護人は証拠調の際に証拠書類として被告人に対する医師の診断書の取調を請求し、情状として被告人が多少精神に異状がある点を立証すると述べ、次で弁論に際し元来被告人は精神が多少常と異り、右せんか左せんかという様な場合善悪の判断ができない状態であるので、違法性の認識はなかつたものと思われる。被告人に若し実刑を科するならば病気を益々悪くするばかりである云々何卒執行猶予の恩典を賜りたいし若しそれが許されないとすれば軽い罰金刑を以て処罰して載きたい旨意見を述べた旨の記載があつて、弁護人の右立証の趣旨及び弁論趣旨は所論の如く被告人は心神喪失少くとも心神耗弱の状態においで本件所為に出でた旨の主張ではなく、単に酌量せらるべき犯罪の情状として述べたに過ぎないものと解するを相当とする。而して、酌量せらるべき犯罪の情状として主張するものは刑事訴訟法第三百三十五条第二項所定の法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実の主張に該当しないが故に、右情状としての主張に対してはその判断を判決に示すことを要するものではない。されば原判決には所論の如き理由を付しない違法はない。